歌
往なざりと往にたるものと思はばや日次ぎ嘆きし吾は何処に
春めきて寝べきに熱し昼つ方今願わくば猫にならばや
つらつらと 要らぬ虚言を 吐きいなし さらにでまかせ 重ね胡麻する
親族に見せる気色は福笑いすべきをせぬは猶しわびしき
やらむとてのばしたる吾(われ)あき愁(うれ)いまめなる人を今は見まうし
月は疾くのぼりて我の暇(ひま)を守(も)り家の者とぞ会うも苦しき
床に伏し時の経ること矢の如くあはれ霧中にせむかたもなし
ながめふり増しける虫のいぶせき音日ごろ濯ぐは塵か驕りか
疾く過ぎてやれ小望月なぜ待たんさればかほどにながめざらまし
帰り来てこの身はかなく覚ゆれば落つる滴り汗か涙か
皆々がすなるものだにでき敢へでやれ夜半の夏夢か現か